毎日歩いているのに筋肉が減るのはなぜ?

当スタジオに通われるお客様の中でも、ウォーキングを習慣化している方は多いです。

ウォーキングはとても良い習慣です。
日光を適度に浴びて、足を動かすことで精神的にも肉体的にも有益な効果が沢山あるのではないでしょうか。
実際、パーソナルトレーナーである私も、週に数回は20分以上のウォーキングを習慣としています。

しかし、これだけで筋力の減少を食い止められるかというご質問をいただいた場合には、
残念ながらNOとお答えしています。
仮に1日2万歩を歩いたとしても、答えは同じです。

この記事では、毎日歩いていても「筋力の減少」を食い止められない理由と、その対策をご説明します。

目次

毎日歩いていても、筋力は落ちている

「健康のために毎日8,000歩歩いています」
「犬の散歩で毎日30分以上歩いています」
「車を使わず、できるだけ歩くようにしています」
とても素晴らしい習慣です。

ウォーキングは、心肺機能の維持、生活習慣病の予防、体脂肪のコントロールなど、特に50代以降の健康づくりには、ぜひ続けてほしい運動です。

ところが、「毎日歩いているから、脚の筋力も大丈夫」
となると、少し話が違ってきます。

当スタジオのお客様でも、
「毎日歩いているのに階段がしんどくなった」
「歩くのは平気なのに、椅子から立つのがつらい」
「片足立ちで、靴や靴下を履くことができない」
という方は少なくありません。

なぜ歩いているのに脚の筋肉は減ってしまうのでしょうか?
その理由を知るためには、まず「歩く運動」と「筋肉を鍛える運動」の違いを知る必要があります。

ウォーキングと筋トレは、役割が違う

ウォーキングは主に有酸素運動です。
一定時間身体を動かし続けることで、心臓や肺の機能を高め、脂質や糖質をエネルギーとして利用します。

一方、筋力トレーニングは筋肉に普段より強い負荷をかけ、
「この筋力では足りない」
という刺激を身体に与える運動です。
この刺激に身体が適応することで、筋力の向上や筋肉量の維持・増加につながります。
必ずしも長時間やる必要はありません。

歩くこと=長く動ける身体をつくる
筋トレ=大きな力を出せる身体をつくる
と考えると分かりやすいでしょう。

どちらが優れているという話ではなく、役割が違うのです。

人間の身体は「慣れた運動」には適応してしまう

ここが今回の記事で最も大切なところです。

例えば毎日30分歩いている方の場合。
最初は少し息が上がり、脚も疲れたかもしれません。

しかし数か月続けると、同じ30分を楽に歩けるようになります。
これは身体が運動に適応した証拠なので、とても良いことです。

ところが筋肉をさらに強くするという点では、同じ負荷を繰り返しているだけでは刺激が不足してきます。

筋力トレーニングには「漸進性過負荷」という基本的な考え方があります。
身体が慣れてきたら、
・少し重くする
・回数を増やす
・動作を難しくする
など、身体の状態に合わせて負荷を少しずつ高めたり変化させていきます。

これによって筋肉は、
「もっと力を出せるようにならなければ」
と適応していきます。

普段から歩いている人にとって、いつもの平坦な道をいつもの速度で歩くことは、とても大切な身体活動ではありますが、筋肉を強くするには刺激が不足する場合があるのです。

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50代から特に気をつけたい「速筋」の減少

筋肉には、大きく分けて「遅筋」と「速筋」という性質の異なる筋線維があります。

「遅筋(Ⅰ型筋線維)」は持久力に優れ、マラソンや歩行など長時間の運動で活躍します。

一方、
「速筋(Ⅱ型筋線維)」は短時間に大きな力を出すことが得意です。
「瞬発力」と表現しても良いでしょう。

例えば、
・椅子から立ち上がる
・階段を上る
・信号が変わり始めたのでダッシュする
・転びそうになった時に踏ん張る
・重い荷物を持つ
といった動作では、大きな力を素早く発揮する能力が必要になります。

そして、加齢による筋肉の変化で特に注目されているのが、この速筋線維です。

研究では、加齢に伴って速筋線維は本数・大きさともに減少しやすいことが報告されています。

つまり、
歩くための持久力はあるのに、立つ・上る・踏ん張る力が落ちている
ということが起こり得るのです。

太ももの筋肉は、加齢でどれくらい減る?

実際の研究データを見てみましょう。

若年者(平均約25歳)と高齢者(平均約75歳)の筋肉を比較した47研究をまとめたレビューでは、約50年間で筋肉の大きさは部位によって大きく減少していました。

中でも重要なのが大腿四頭筋、つまり太ももの前側の筋肉です。
大腿四頭筋は、
約50年間で27%減少
していました。

単純に1年あたりに換算すると、約0.53%です。
さらに大腿四頭筋の中の「大腿直筋」では約33%の減少が報告されています。
一方、歩行で日常的によく使われるふくらはぎの「ヒラメ筋」は減少率が比較的小さく、約6%でした。

つまり、加齢による筋肉の減り方は、すべての筋肉で同じではありません。

日常生活で強い刺激を受ける機会が少ない筋肉ほど、意識して鍛える必要がある可能性があるのです。

参考論文:Human skeletal muscle-specific atrophy with aging: a comprehensive review
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10069966/?utm_source=chatgpt.com

「毎日1万歩」でも筋トレの代わりにはならない

ここまで読むと、
「では、もっとたくさん歩けばいいのでは?」
と思われるかもしれません。

もちろん歩く量を増やすことには、多くの健康上のメリットがあります。
しかし、
歩数を増やすことと、筋肉に大きな負荷を与えることは同じではありません。

世界保健機関(WHO)も、成人に対して週150~300分の中強度の有酸素運動を推奨すると同時に、
主要な筋肉を使う筋力トレーニングを週2日以上
行うことを推奨しています。

参考論文:身体活動

もしウォーキングだけで筋力維持に必要な刺激を十分得られるのであれば、この二つを分けて推奨する必要はありません。

「歩く」と「鍛える」。
両方必要なのです。

筋肉量より先に「筋力」が落ちることもある

もう一つ、50代以降の身体づくりで知っておきたいことがあります。
それは、
「筋肉の量」と「筋力」は同じではない
ということです。

筋力には、
・筋肉の量
・筋線維の質
・神経から筋肉への指令
・身体の使い方
など、さまざまな要素が関係します。

そのため、体組成計で筋肉率がそれほど変わっていなくても、
「階段がしんどくなった」
「立ち上がるのに手を使うようになった」
という変化が先に現れることがあります。

最近の研究でも、サルコペニアの高齢女性に筋力トレーニングを行うと、筋肉量の明確な増加がみられなくても、膝を伸ばす筋力や歩行速度、椅子からの立ち上がり能力などは改善することが報告されています。

参考:高齢女性における筋肉量、筋力、身体機能に対するレジスタンストレーニングの影響:システマティックレビューおよびメタアナリシス – PubMed

つまり、
筋肉を増やすことだけが筋トレの効果ではない
のです。

ウォーキングに何をプラスすればいい?


では、50代以降はウォーキングをやめて筋トレをすればよいのでしょうか?

もちろん違います。
ウォーキングはぜひ続けてください。
そのうえで、少しずつ「筋肉への負荷」を加えていきます。

例えば、
普通のウォーキング

速歩

坂道や階段を取り入れる

自分の体重を使ったスクワット

チューブやダンベルやマシンなどを使った筋力トレーニング

というように、身体の状態に合わせて負荷を高めていくことができます。
大切なのは、
「きつい運動をすること」ではなく、「今の自分にとって適切な刺激を与えること」
です。

50代から初めて筋トレをする方が、いきなり重いバーベルを持つ必要はありません。

50代からは「歩ける身体」+「踏ん張れる身体」を


ウォーキングを続けている方は、それだけでも素晴らしい健康習慣を持っています。
そこにもう一つ、
「筋肉に少し強い刺激を与える時間」
を加えてみてください。

ウォーキングによって、
長く歩ける身体をつくる。

筋力トレーニングによって、
立つ・上る・踏ん張る力を維持する。

そしてピラティスなどによって、
その筋肉をバランスよく使える身体をつくる。

これらを組み合わせることで、50代以降の身体づくりはさらに充実したものになります。

まとめ ~「歩いているから大丈夫」から、もう一歩先へ~


毎日歩くことは、間違いなく健康に良い習慣です。
だから、ウォーキングをやめる必要はまったくありません。

ただし、
「毎日歩いている=筋肉も十分に鍛えられている」
とは限りません。

特に50代以降は、加齢によって速筋線維や太ももの筋肉が減少しやすくなります。

これから10年、20年先も、旅行を楽しむ。階段を自分の脚で上る。
転びそうになったら踏ん張ってケガをしない。
買い物袋を持って歩ける。

そんな当たり前の日常を続けるために必要なのは、
「たくさん歩ける身体」と「しっかり力を出せる身体」の両方です。

ウォーキングに週2回程度の筋力トレーニングをプラスする。
50代からの身体づくりでは、この「もう一歩」が、10年後の大きな違いにつながるかもしれません。

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